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オバサン・月経・犯罪

取調べに負けない方法

和歌山カレー事件の林眞須美の“スゴい”ところは、これまで一度も犯行を自白していない点である。

苛酷な取調べに対し、無実であっても、「裁判で否認すればいい」などと言われ、自白してしまうことが多い。

しかし、一度自白してしまうと、否認に転じたところで、裁判所も世間もなかなか認めてはくれない。

足利事件の菅家さんの場合もそうだった。

物的証拠がないこともあり、林眞須美に対しては、相当手荒な取調べが行われたようである。

それでも、林眞須美はオチなかった

自白なし、物的証拠なしというこの事件は、極端な話、のちのち真犯人が名乗り出てくる可能性がないとは言えない。

1027日付の当ブログ「甲山事件と『犯罪における月経要因説』」で触れたSさんは、身に覚えのない殺人を自白してしまい、その後、無罪を勝ち取るまでに、25年の年月を要している。

Sさんが自白したのは、逮捕から10日目。

以下引用> 連日十二時間前後に及ぶ取調べに、いかに若いとはいえ○○(引用者注・Sさんのこと)の身心の疲労は極まろうとしていた。取調べ室で与えられる椅子は背もたれも肘掛けもないただの丸椅子で、この小さな椅子に三時間も四時間も坐り続けると、それ自体が拷問のような苦痛となってくる。(中略)そんな身心の疲労の蓄積が湿疹となって噴き上げているのであった。

 しかし警察医は湿疹については簡単な診察をしただけで、それよりは思いがけないことを問い掛けてきた。

「あなたは過去に妊娠中絶をしたことがありますか」

(中略)警察はこの事件の動機を摑めないままに、男女関係のもつれが原因ではないかという見方を捨てきれずにいて、それに関連しての問診であった。(松下竜一『記憶の闇――甲山事件1974→1984』)

自白の直接のきっかけは、刑事の「お父さんも○○ちゃんを疑ってるんですねえ」という言葉だった。

「わたしは暗闇に突き落とされたような気持ちになりました。この世で自分を信じてくれてる者は誰もいないという気になって……もう、どうでもよくなったんです」(同上)

もちろん、父親はSさんのことを疑ってはいなかった。

Sさんは、刑事の心理作戦に負けてしまったのである。

Sさんは、苛酷な取調べ期間中も、薄着で留置場の寒さに震える外国人を気遣い、自分の上着を差し入れたいと申し出るような人だった。

取調べを行う刑事にまで気を遣って世間話をし、それが裏目に出てしまうこともあった。

刑事や検事の苛酷な取調べに、無実の素人が負けないためには、どうしたらよいのだろうか?

障害者郵便悪用事件で逮捕されたが、検察の取調べに屈せず、無罪を勝ち取った厚生労働省の村木厚子さんは、「私は泣かない、屈さない」(「文藝春秋」編集部『私は真犯人を知っている』所収)で、次のように語っている。

「検事の土俵にいる限り、私が勝つことなんてありえない。だとすると、やらなきゃいけないのは負けてしまわないことですよね。負けてしまわない、というのは、やってもいないことを『やった』と言わないこと。もうそれしか目標を作りませんでした

「まず絶対に体調を崩さないこと。それから落ち込まないこと」

これなら、なんとか真似できそうである。

しかし――

「経済的な負担も大きいんです。保釈金を一千五百万円も払わなければならなかったのも痛かったし、弁護士さんへの費用や実費もかかります。我が家のこれまでの蓄えを放出し、定期預金もいくつも解約しました。(中略)もし私が一家の大黒柱で家族全員の生活がかかっているということだったら、こんな風に戦えただろうか……と思います。裁判を戦うというのは、やってみるとすごく難しい。気持ちが折れない、健康で体力が続く、いい弁護団に恵まれる、自分の生活と弁護費用をまかなえる経済力がある、家族の理解と協力を得られる、という五つの条件が揃う幸運に恵まれないと戦えないんです

私の場合は、経済的に無理。定期預金なんて一つもない。

間違って逮捕されないことを祈るしかない。

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