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無痛分娩は危険か?

今月、厚生労働省研究班が医療機関に対し、「無痛分娩を行う際には急変時に対応できる十分な体制を整えた上で実施するように」との緊急提言を行った。

研究班によれば、2010年1月から16年4月までに報告された298件の妊産婦死亡例のうち、無痛分娩を行っていた死亡例が13件(4%)あり、うち1件が麻酔薬による中毒症状で死亡、12件は大量出血や羊水が血液中に入ることで起きる羊水塞栓症などだったという。

この提言について、メディアは「麻酔使った『無痛分娩』で13人死亡…厚労省、急変対応求める緊急提言」(『読売新聞』)といった見出しで報じた。

無痛分娩は危険なのだろうか?

現在、無痛分娩は分娩全体の少なくとも5%は占めている。したがって、妊産婦死亡例のうち4%という数字は高いとはいえない。

しかも「無痛分娩による死亡例」ではなく、「無痛分娩を行っていた死亡例」であり、明らかに「麻酔」が原因であった例は1件である。

また、この研究班の主任研究者自身が、「無痛分娩で死亡率が明らかに高まるとは言えない」と述べている。

そもそも無痛分娩に限らず、どんなお産でも「急変時に対応できる十分な体制を整えた上で実施する」のが当たり前である。

無痛分娩は、高血圧の妊婦や、心肺が弱い妊婦の負担を軽減し、産後の回復も早い。それに何と言っても、「痛くない」という絶対的なメリットがある。

欧米ではむしろ多数を占める無痛分娩が、日本であまり普及しない背景には、「陣痛を経験してこそ立派な母親になれる」といった精神論があるが、なぜ出産の痛みだけが賞賛されるのか、謎である

陣痛は尊くて、帝王切開の痛みはただの痛みなのか。陣痛を経験しないと親になれないなら、男性や養親は永遠に親にはなれないのか。

陣痛についてはもっといろいろ書きたいことがあるが、話が逸れていくので冒頭の「緊急提言」に戻る。医療事故の中でも、麻酔事故の割合は高いので、こうした提言は必要だが、無痛分娩における死亡率が高いかのような印象を与える報道には問題がある。

メディアは、〝痛くないお産〟がもたらす個人的メリット(例えば痛がりの私は、無痛分娩がなければ出産できなかった)や、社会的メリット(少子化解消がメリットであるならば)も俎上に載せてほしい。

追記)6月12日に、京都の産婦人科医院で無痛分娩を行った妊婦が心肺停止状態となり、生まれてきた女児が脳性まひになったというニュースが配信された。これは、「硬膜外麻酔」の失敗が原因のようだが、「硬膜外麻酔」は手術後の痛みなどに対して最もよく使われる麻酔であり、これが危険だということになると、あらゆる手術が危険だということになる。無痛分娩を無闇に危険視するのではなく、どの点(つまりは硬膜外麻酔)が危険なのか、ということを冷静に判断する必要がある。無痛分娩が一般化していない日本では、産科の医師がすべて麻酔に精通しているわけではない。筆者が分娩した病院では、麻酔は麻酔科の医師が担当していた。

日本では無痛分娩を積極的に行っている病院は少ない。筆者は積極的に行っている病院を選び、まったく痛みを感じなかったので、妹にも無痛分娩を勧めた。しかし妹は分娩の際、とても痛がっていたので、私が助産師に「無痛分娩なのにどうしてですか?」と尋ねると、「当病院の無痛分娩は『気休め』程度です」と返され、唖然とした。このように、同じ「無痛分娩」でも、病院によってかなり差がある。それにしても、「気休め」程度で「無痛分娩」の看板を掲げるなと言いたい。

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