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年の差婚(その1)看取り

2011年「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補60語のなかに、「年の差婚」がある。

たしかに今年は、芸能人の年の差婚が相次いだ。

〈男高女低〉の年の差婚では、加藤茶(45歳差)、堺正章(22歳差)、黒田アーサー(17歳差)など。

〈女高男低〉の年の差婚では、ほしのあき(13歳差)、鈴木砂羽(11歳差)など。

拙著『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)には、「芸能人の年の差婚」という項があるのだが、執筆当時、まだ加藤茶は再婚しておらず、年齢差が最も大きかった例として、元TBSアナウンサーの山本文郎に触れている。

山本は、73歳のときに30歳年下の女性と結婚し、芸能界最高齢再婚を記録した。

『週刊現代』のインタビュー記事によれば、プロポーズは彼女のほうから。

30歳も年の差があるし、ボクの寿命はせいぜいあと10年だよ」とためらう山本に、彼女が言った、「もし、あなたが病気で倒れたり、ボケたりしたときは私が全力で看病します」という言葉が「決め手」となった。

97歳(当時)になる山本の母親は、「文郎も一人で死ななくて済む」と喜んだという。

日本では、女性のほうが男性よりも年齢、学歴、収入が低いといういわゆる〈低方婚〉が望まれてきた(結婚相談所の広告からも明らか)。

夫にとっての低方婚のメリットは、2つある。

夫のほうが年長で、学歴も高ければ、自動的に敬われる(とは限らないが、日本は学歴社会であり、一応、年長者を敬う文化が存在する)。

さらに、もともと女性のほうが寿命が長いことに加え、妻が年下であれば、看取ってもらえる可能性が高い。

山本のように30歳も若い妻であれば、ほぼ間違いなく山本が先に逝くことになるだろう。

芸能人の〈女高男低〉婚で、年齢差が最も大きいのは、68歳のときに24歳年下の男性と結婚した漫才師の内海桂子だろう。

さすがに内海が高齢なため、このカップルは夫が妻を看取るという前提で話をしている。

内海はプロポーズに対して、「じゃあ、あんた、私の死に水取ってくれるの?」と質問したという。

男女を問わず、自分が高齢で相手が若い場合、いったい相手は自分の最期のときまで一緒にいてくれるのだろうか? ということが気になるのかもしれない。

この点、お互い若くして結婚した夫婦や、年が離れていない夫婦の場合、結婚時に「介護」や「死に水」が話題になることは少ない。

いずれにしても、〈男高女低〉婚が多い日本では(諸外国の事情については際限がなくなるので触れない)、結果的に妻が夫を看取ることが多く、これが逆転し、夫を看取るつもりでいた妻が看取られる側になってしまうと、そこには遠慮が生じてしまう。

(具体的には、上野千鶴子著『おひとりさまの老後』〔法研、2007年〕の「女はお世話する性か?」という項をご参照ください)

妻が夫を介護することは当たり前で、いくら頑張っても誰も褒めてくれないが、夫が妻を介護すると、それは「美談」として語られる。

もちろん、「語られる」というだけで、当事者にとっては美談では済まされない。

働き続けないと食べていけないにも関わらず、離職して妻(あるいは親)の介護をしている男性たちの窮状が、最近マスコミでも取り上げられるようになった。

厚生労働省が行った高齢者虐待に関する調査によれば、養護者(家族、親族、同居人等)が加害者の場合、「息子」が41.0%と最も多く、次いで「夫」が17.7%、「娘」が15.2%の順だった。

養護者の割合は圧倒的に女性が多いにも関わらず、加害者は男性が多い。

これについて、厚生労働省の高齢者支援課は、「男性は家事に慣れていなかったり、弱音を吐くのが苦手だったりするという指摘がある」と説明している(『朝日新聞』)。

妻が夫を看取ることは当たり前とみなされ、いくら頑張っても褒められないと書いたが、夫を見送ったあと、それまでになく生き生きと生活している女性たちが少なくないということも、付け加えておきたい。

(文中、敬称略)