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その8:「空飛ぶ主婦」――フランシナ・ブランカース=クン

 フランシナ・ブランカース=クンは、今から百年前、オランダのユトレヒト州に生まれた。陸上競技の選手として、オランダ選手権や欧州選手権などで何度も優勝をおさめ、複数の種目で世界記録を更新した。オリンピックでは、一大会で四つの金メダルを獲得するという快挙を成し遂げている。

 比類のない功績を残した彼女はしかし、「アスリート」としてよりも、「女性」あるいは「母親」として注目され続けた。

 一九三六年に一八歳でオリンピックベルリン大会に出場し、走り高跳びで六位に入賞したクンは、次のヘルシンキ大会でのメダル獲得を期待された。しかし、第二次世界大戦が勃発しオリンピックは中止に。その間もクンは、アスリートとして国内外で活躍する一方、結婚して二人の子どもをもうけた。

 最初の出産の際、オランダのメディアは、「クンの選手生命は終わった」と報じた。女性がスポーツをすること自体を否定的にとらえる人が多かった当時、「母親」がスポーツを続けるということは、「非常識」であった。しかし、クンはアスリートであり続けた。

 大戦後初のオリンピックとなった一九四八年のロンドン大会の国内選考でクンは、百メートル走、八〇メートルハードル走、二百メートル走、四百メートルリレーの四種目でオランダ代表の座を獲得した。

 これについて大会役員だったイギリス人男性は、「二人の子を持つ三〇歳の母親が、家族を放置してショートパンツで走ることに、いったいどれほどの意味があるのだろうか」と語った。

 結局クンは、四種目すべてで金メダルを獲得。国際舞台で華々しい活躍をしたクンは、「空飛ぶ主婦」というあだ名を冠された。

 現在の日本でも、子どもがいる女性アスリートは少数派であるため、その点に注目されがちだが、さすがに「子どもを放置している」とは見なされない。しかし、アスリートとして存在している彼女たちをわざわざ「ママさんランナー」などと呼ぶことに、「いったいどれほどの意味があるのだろうか」。

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