NHKカーネーション「黒田屋の火事」
NHK連続テレビ小説『カーネーション』(第24、25回)。
岸和田の傾きかけた呉服屋の娘、糸子は、得意の洋裁で、家計を助けたいと考えていた。
そんなとき(1932〔昭和7〕年12月)、東京の黒田屋デパートで火災が発生。
新聞やラジオは、救命ロープで降下しようとした和装の女性店員たちが、下にいる救助者や野次馬たちの視線を気にして片手で裾を押さえたため、体重を支えきれずに転落死したと報じ、女性店員の洋装化を訴えた。
糸子はチャンスとばかりに、心斎橋のデパートへ出かけ、自分に店員の制服を作らせてほしいと支配人に直談判する。
黒田屋の火災とはつまり、同年同月に発生した日本橋白木屋デパートの火災のことである。
8階建てビルの上半分を焼失し、火災による死者1人、転落による死者13人、負傷者67人を出す惨事となった(東京消防庁HP)。
これを機に洋装化が進み、女性がズロース(パンツ)を穿くようになったと言われている。
しかし井上章一は、『パンツが見える。――羞恥心の現代史』(朝日新聞社、2002年)のなかで、この「白木屋ズロース伝説」が虚構だということを証明している。
たしかに、生きるか死ぬかの状況で、他人の視線など気にしていられない。
ここで生理用品の話になるが、昭和初期に、「フレンド月経帯」「メトロン月経帯」「ノーブルバンド」といった月経帯が相次いで発売された背景には、腰巻に代わるズロースの普及があり、そのきっかけとなったのが、白木屋の火災だという説がある。
「きっかけ」が虚構であるばかりか、この時期にズロースの着用者が増加したという事実もなかった。
東京都渋谷区の東北寺には、白木屋火災で殉職した、女性店員8人、男性店員5人の墓がある。
男性も転落死していることが、「白木屋ズロース伝説」が虚構であることを裏付けている。
(文中、敬称略)