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2012-08-22

『NHKのど自慢』と古殿町

『NHKのど自慢』という番組は、毎回、開催地も出場者も異なるのに、同じものを観ている感覚に陥る。

伴奏などお構いなしに歌う高齢者(特別賞をもらう確率が高い)、制服を着て民謡を歌う女子高生、エプロンをつけてキャンディーズを歌い踊る幼稚園の先生たち。

その、同じものを観ている感覚、「日常」の感覚が、日曜日の昼食時にはちょうどよい。

これは、『のど自慢』の視聴者の多くに共通する感覚だろう。

そして、全国でごく一部、特別な思いで視聴する人たちがいる。

開催地の地元の人々や、その関係者たちである。

お盆休みを佐渡島で過ごしながら、子どもの頃、夏休みのほとんどを過ごした福島県の郡山市や古殿町を思い出していた。

古殿町から、隣のいわき市にある勿来(なこそ)海岸や、常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)へ、家族や親戚とよく出かけたものだ。

すると、偶然にもその日(8月12日)の『のど自慢』の会場は、いわき市だった。

いつもは「ながら観」だが、最初から最後まで、特別な思いで観た。

原発事故後、操業できない漁師さん、自宅が警戒区域内にあり、今は他県で働いている若い男性、仮設住宅で暮らしている主婦。

歌い終わって語る、ひと言、ひと言に重みがあった。

『のど自慢』という「日常」の中だけに、失われた「日常」が際立つ。

その日の夜、福島県中通りを震源とする地震があり、地震速報で、古殿町が震度5弱と報じられた。

ほかの地名はなく、地図上に表示された周辺の震度は1。

このときに限らず、大震災後、古殿町ではたびたびピンポイントで大きな地震が起きている。

お盆に集った家々の団欒を殺いだであろう地震に、溜息が出た。

 

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