『おしん』(大人時代)を観て(残念で)泣く
NHKBSで再放送中の『おしん』。
小林綾子演じる「子ども時代」が終わり、田中裕子演じる「大人時代」が始まった。
私は『おしん』を何度か観ているのだが、「大人時代」についてはほとんど何も覚えていないため、まったく新鮮な気持ちで観ることができた。
おしんは米問屋加賀屋で奉公を続けながら、16歳になっていた。
ときは1916年(大正5年)。第一次大戦中で、翌年には米騒動が起こる。
1911年に平塚雷鳥によって『青鞜』が創刊されているが、その影響をもろに受けた加賀屋の「跡とり娘」お加代(東てる美)は、すっかり「新しい女」になっていて、東京へ出て画家になるという夢を語る。
お加代にも、そしておしんにも具体的な「縁談」が持ち上がるが、「新しい女」のお加代は見向きもしない。対照的におしんは、小作出身の自分が裕福な家に嫁げるというだけで、満足している。
ある日、海岸へ絵を描きに行ったお加代を迎えに行ったおしんは、いきなり知らない男(渡瀬恒彦)に体をつかまれ、「このまま一緒に歩いてくれ」と言われる。
男は農民運動の活動家で、当局に尾行されており、カップル(とは当時は言わないけれど)を装って逃げようとしたのである。
2人はそのままお加代のもとへ行き、男はお加代の絵を軽く褒めてから、「もっと勢いがあったほうがよい」などと無責任なアドバイスをし、好きな画家は?というお加代の質問に「ゴーギャン」と答え、すっかりお加代の心を掴んでしまう。
しかし男は、お加代のことを露骨に避け、おしんに好意をもつ。
農民運動家だから、米問屋の娘というだけで受け入れられないのか? と思いきや、自分は大地主の息子とか。
おしんは最初は男と関わろうとしないが、男が小作を解放したい!と熱く語った途端、目の色が変わり(田中裕子が演じると怖い)、協力を申し出る。そのために、お加代と、かわいがってくれている加賀屋の大奥様(長岡輝子)にまで嘘をつく。
あの正直なおしんはどこに行ってしまったのか、と残念。
それにしても活動家の男、年がいくつなのか不明だが、絵についての能書きや、小作解放を熱く語ることで、16歳のおぼこ娘たちの気持ちを簡単に掴んでしまうとは。今のところ、悪い男にしか見えない。
子ども時代は「壮大な女性史の序章」とも思えたが、大人時代はまるで昼ドラ。どうしてこんなことに。
たぶん、野中宗助さんがおっしゃるように、「恋愛は物語には『ならない』」からであろう。