一人っ子はかわいそうではありません。
8月29日(火)の朝日新聞(東京版)「声」欄に、青森県在住の45歳女性による「一人っ子はかわいそうですか?」という投稿が掲載された。
「一人っ子」は、新聞や雑誌の投稿欄や、インターネットの育児に関する掲示板などで、たびたび議論となるテーマである。
それだけ「一人っ子ってどうなんだろう」と悩む母親(今のところ父親からの問いかけは見たことがない)が多いということだ。
投稿した女性には、小学校1年生の息子さんがいる。学童保育で上の学年の子と遊んでいて転んでしまったことがあり、そのとき職員から「兄姉がいる子は年上とのやり取りも上手ですが、息子さん、一人なので難しいでしょうね」と言われ、「すみません。一人っ子なので」と思わず謝ってしまったという。「もう一人欲しかったがかなわなかった。(中略)地方ではフルタイム勤務で高齢出産・一人っ子は少数なのだろう」。ご自身も一人っ子で、これまでも親類から「一人っ子はかわいそう。あなたもそうでしょう」といわれたことがあったという女性は、「今になって、一人っ子がよくないことのようで、否定されたと感じて傷つく自分がいる。一人を大事に育てていくしかない事情、わかってくれませんか?」とまとめている。
「一人っ子はかわいそう」と言う人はおそらく、「きょうだいがいないと寂しい」「将来、親の介護を一人で引き受けなければならない」といったことを念頭に置いているのだろう。しかし、「一人っ子=寂しい」はあまりに短絡的なイメージである。また、「親の介護」は必ずしも経験するとは限らないし、きょうだいで分担しようとすることで、諍いが起こることもある。
私は三姉妹の長女だが、3人とも近くに住んでいるので、しょっちゅう集まっては食べたりしゃべったり楽しい時間を過ごしている。しかし、子どもの頃は喧嘩も多く(成長にはきょうだい喧嘩が必要という考え方もあろうが、いまだに嫌な記憶である)、親が妹を贔屓していると感じて面白くなかった時期もある。今はうまくいっているが、いずれ親の介護や相続のことで揉めるときがくるかもしれない。
当たり前だが、きょうだいがいてよいこともあれば、一人っ子だから抱えずに済む問題もあり、どちらがいいなどと一概には言えない。
投稿に出てくる学童保育の職員のように、「一人っ子は他人とのやり取りが下手」という見方もあるようだが、子どもが過ごす場所は家庭だけではない。一人っ子に限らず、ほとんどの人が保育園や幼稚園、学校で他人とのやり取りを身につけていくのではないだろうか。
また、「一人っ子は親の愛情を一身に受けて育つため、我儘になる」と言う人もいるが、それこそ偏見というものである。かりに家庭内で我儘が通じたとして、一歩外に出たら通用しないのだから、変わっていかざるをえない。
「一人っ子がかわいそう」だとしたら、それは世間に「一人っ子がかわいそう」と信じて疑わない人が一定数いるためである。「かわいそうね」と言われ続けたら、そう思い込んでしまう子どももいるだろう。投稿の女性は、ご自身が一人っ子だが、もしかしたら「かわいそう」という視線のなかで育ったのかもしれない。
私も一人っ子の親だが、子どもが保育園の先生から「弟とか妹ほしくない? お母さんいくつ?」と聞かれ、子どもが私の年齢を答えると(当時40歳くらいだったと思う)、「あらそう、かわいそうに」と言われことがあった。けれどわたしは、自分には“一人っ子育児”が合っていると感じているし、子どもも「かわいそう」には見えないので、気に留めなかった。そういう立場から言えば、この女性の投稿は、一人っ子であることには何か「事情」があり、母親は「傷つ」いているという偏見を助長しそうで、多少迷惑ではある。
「早く結婚しなさいよ」とか「子どもはまだ?」とか「一人っ子はかわいそうよ」といった問いかけは、等しく余計なお世話であり、無神経なのだが、結婚しないことや子どもがいないことについては勇ましく反論できた人でも、「一人っ子はかわいそう」発言については、投稿者の女性のようにくよくよと悩んでしまう傾向がある。
それは、「かわいそう」と言われるのが自分ではなく、子どもだからではないだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」によれば、一人っ子の割合は、第12回調査(2002年)8.9%、第13回調査(2005年)11.7%、第14回調査(2010年)15.9%、第15回調査(2015年)18.6%と増加の傾向にある。とくに都心ではその傾向が顕著で、わたしの子どもが通う公立小学校は、クラスの3分の1が一人っ子である。一人っ子が珍しくなくなれば、子どもの言動を「一人っ子」で解釈しようとはしなくなるので、一人っ子に対する偏見も解消していくだろう。
投稿者ご自身がよくわかっているように、子どもを持つ持たない、何人持つということは、計画通りに行くとは限らない。子どものほうも、何人きょうだいに生まれるか、きょうだいの何番目に生まれるかということは、自分ではいかんともしがたい。いかんともしがたいことを云々する他人のことなど気にせず、(一人っ子だけに)一度きりの子育てを目一杯楽しんだほうがいい。