ザ・ノンフィクション「老人と放射能~FUKUSHIMA~」
毎週日曜、午後2時から放送されている『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)。
かれこれ15年ほど見続けている。
毎回、異なる対象(人物、家族、店など)を追うのだが、あまりハズレがない。
私が大家族モノに興味を持ち始めたのも、『ザ・ノンフィクション』の人気シリーズ(勝手にそう思っている)「われら百姓家族」がきっかけだった。
最近、各局で放送されているいくつかの大家族モノとは全然、違った。
心に残るシーンがたくさんあった。
さて、前回(15日)の放送は、600回記念企画の「老人と放射能~FUKUSHIMA~」の第1章。
取材対象は、福島県浪江町で年老いた犬とともに自給自足生活を送る川本年邦さん、80歳。
取材は、東日本大震災の1年前から始まった。
川本さんの人柄、生活、人生、生き甲斐を追うだけで十分に作品になるはずだった。
しかし、原発事故が起こり、当初は予想もしなかったタイトルになってしまったのだろう。
川本さんの宝物は、17歳のときに、戦争で焼き出された子どもたちを楽しませようと買った電気紙芝居(幻燈機)。
「人に尽くさなきゃ生きている価値がない」が信条の川本さんは、子どもたちのために自宅を無料開放し、電気紙芝居を上映。大工仕事で得た給金をすべて注ぎ込んだ。
27歳で結婚。二児をもうけるが、その後も自宅を子どもたちのために開放し続けた。
結婚20年目に、妻は書置きを残していなくなった。
「神様のような人についていくのに疲れました」
その後、長男一家と同居するもうまくいかず、68歳のとき浪江に移ってきた。
そのときに抱いていた夢は、浪江に「子どもと老人の楽園」を作ること。
手はじめに地元の子どもたちに児童書を寄贈すると、それがメディアで紹介され、ほどなく子どもたちのための活動を行っているというNPOの女性代表が訪ねてきた。
彼女の「子どもと老人の楽園を作りましょう」という言葉を信用し、まず4000冊の児童書を寄贈。
その後、彼女に乞われるままに活動資金を貸し続けた。
総額2430万円。
NPOは傷害事件を起こして認可を取り消され、代表は姿をくらました。
それでも川本さんの信条は変わらない。
川本さんの現金収入は、月4万5千円の年金のみ。
預金残高は1万数千円。
資金不足で生き甲斐の電気紙芝居の上映もできなくなった。
4ヵ月後、2010年春。
川本さんの人柄に魅かれた小学校の先生が、電気紙芝居の上映を依頼してきた。
「フランダースの犬」や「泣いた赤鬼」に、夢中で見入る子どもたち。
川本さんの夢は、まだ続いていた。
しかし、この1年後に原発事故が起こり、浪江町が全町避難の対象となることを視聴者は知っている。
「老人と放射能~FUKUSHIMA~」第2章の放送は22日(日)。
人のために尽くした結果、老後の蓄えを失ってしまった「理不尽」。
愛犬と慎ましく暮らす山里を原発事故によって追われる「理不尽」。
最後まで観れば、「理不尽」以外の感想を持つことができるだろうか。
持てることを期待したい。