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2012-10-22

永山則夫の精神鑑定医(その2)

「犯罪における月経要因説」とは、女性の犯罪行為と月経周期には関連性がある、という考え方である。

現在は、「月経前症候群(PMS)」の概念のもと、女性の精神状態は月経前に悪くなるとされているが、半世紀ほど前までは、女性の犯罪や自殺は、月経中に多いと言われていた。(「月経直後説」や「排卵日説」もあった。月経周期と犯罪は、どうにでもこじつけられるという証拠である)

戦前の日本では、性別役割分業を根拠づけるために、女子教育書や性科学書などで、月経と犯罪の関連性が説かれた。

戦後になると、犯罪精神医学者たちが、「科学的」に月経と犯罪の関連性を説いたが、のちに永山則夫の精神鑑定を行うことになる石川義博も、「女子犯罪と月経との関連について――1ナルコレプシー患者の犯罪精神医学的考察」(小木貞孝との共著)という論文を発表している。

症例とされたのは、37歳のスリ常習犯の女性である。

「かなり裕福な家庭の主婦でありながら、月経直前において動機のない犯罪を四回」繰り返したため、症例研究の対象とされた。

犯行時月経状態については、「客観的証拠はないが、1960年8月より1961年7月までの月経周期を調べてみると、大体30日型であり、これを過去にさかのぼって推測すると犯行日が月経前日であったことがほぼ確実」とされている。

しかし、最初の犯行が行われたのは195711月である。以後、1960年8月まで、30日周期とした場合、月経は34回訪れたことになる

たとえ正確に30日周期だとしても、毎回数時間あるいは数十分のずれは生じるはずであり、月経日を34回分さかのぼって推測することは不可能である。ましてや「大体30日型」というような大雑把な捉え方で「ほぼ確実」と言えるはずがない。

そして不思議なことに、この女性の「身体的所見」には「不規則月経」とあり、月経周期は「大体30日型」で、犯行は月経直前だったという大前提との間に矛盾を生じてしまっている。

ではなぜ、「客観的証拠」がないにも関わらず、「犯行日が月経前日であったことがほぼ確実」としなければならなかったのだろうか。

それは、この論文の目的が、「女子犯罪と月経との関連については古くから多くの事例が報告されているし、統計的にも証明されている」という前提に立って、「戦後発達した内分泌学の新しい知見をもとに、女子犯罪者を考察」することだったからである。

いずれにしても、この論文は、月経と犯罪を関連づけたいときに積極的に引用されることになり、「月経周期の影響下にある不安定な女性」像を強化してきた。

(以上、拙著『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』より)

ETV特集『永山則夫 100時間の告白~封印された精神鑑定の真実~』を観て、この論文を書いた人物と、「永山則夫 精神鑑定書」を作成した人物が同一だということを知り、意外だった。

(文中敬称略)

 


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